幻のリンゴ、人気急上昇
岩手県内の民間人により17年前に開発された「青林(せいりん)」の人気が急上昇している。一部の専門家らを除き、消費者にはほとんど知られていない「幻のリンゴ」だ。小ぶりで形がゆがみ、色づきが悪く、見かけは劣等生だが、蜜が多く、糖度が高く、食感は「リンゴの王様」と言われるふじにひけをとらない。県外の大手スーパーから熱い視線を送られ、皇室への献上品の候補にあがるなど、岩手のオリジナル品種として一躍、脚光を浴びている。
青林は1990年、盛岡市内でリンゴ園を営む小山田博さん(71)ら3人の民間人によって開発され、品種登録された。自然交雑実生(みしょう)で、母がレッドゴールド、父は不明だが、王林と見られている。11月中旬以降に収穫する晩生種だ。
果実は小ぶりで、黄緑色に淡い紅色がつき、変形している。大きく、円形で、真っ赤に色づいた「サンふじ」と比べると、見た目の差は歴然としている。
しかし、食べると評価は一変する。レッドゴールドや王林の特徴を受け継いで、特有の芳香と濃厚な甘みがあり、しゃきしゃきと歯ごたえ感がある。
栽培に手間がかからないことも大きな特徴で、大玉でも小玉でも味にむらが出ない、台風にも強く収穫前に落下しない、葉摘みや玉回しといった着色管理も必要ない――と、それほど手をかけなくても立派に育つ優等生なのだ。いわば、雑草のたくましさと気品とを併せ持つ、岩手育ちのリンゴと言えよう。
市場にはあまり出回っておらず、県内で栽培する農家は少ない。その一人で、奥州市でリンゴ園を経営する高野卓郎(たかお)さん(67)は、青林を「リンゴのラフランス」と呼んでいる。「市場で評価されるリンゴの常識とかけ離れていて、希少な価値がある」
知る人ぞ知る青林が注目され始めたのは数年前から。06年に高野さんは、関西で高級食品を扱う「いかりスーパーマーケット」から注文を受けて、一箱10キロ入りの青林を36箱送った。今年は40箱。将来は2000箱を求められている。
スーパー業務本部の小倉和士さん(50)は「素晴らしいリンゴにめぐり合った。おいしく小さくて食べきれる点も評価されているのでは。高い値段で売れています」と話す。
県内からはリンゴが毎年皇室に献上され、今年もサンふじ、金星などが送られた。県産のリンゴを献上するのが生産者による「蛍雪会」の悲願で、その対象に青林が検討されている。
青林は、なぜ、これまで広まらなかったのだろう。開発した小山田さんは「見かけとともに、収穫期が重なるふじの陰に隠れてしまったせいではないか」と推測している。
皆さんの身近で良い物でも陰に隠れて見落としている物はありませんか?